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用語

日本区域麻酔学会による「神経ブロック用語統一」について

近年、新しい名前の神経ブロック法が次々と発表されています。学問的に区域麻酔が活発化することは良いことですが、これらの神経ブロック法の中には過去のものと類似していたり、臨床的意義が明確でないものがあり、実際に施行する区域麻酔科医の間に混乱を招きかねない事態になっています。
J-RACE検定試験問題においても神経ブロックに関する出題が行われていますが、ブロックの定義や名称が統一していなければ問題作成者だけでなく受験生にも混乱を与えることになります。また国内の学術集会などの発表や議論においても知識の共有化に支障が出る可能性があります。
英語表記についてはASRAとESRAによる用語統一の試みが始まっています。一方、日本においてはそもそも和訳がまだ存在していないブロック法があり、適切な日本語表記によるブロック法の命名や用語統一が急務でした。
このような状況の中、区域麻酔学会では2023年6月時点の標準的と考えられるブロック法についてそのエンドポイント(薬液投与部位)を明確化して、上肢、下肢、胸部、腹部、脊柱周囲、頭頚部、そしてペインクリニック領域で使用される神経ブロック名を統一いたしました。
ただ用語統一は今回で終了ではなく、今後も引き続き行われるべき作業です。新しいブロック法が発表されたりエビデンスが蓄積し、標準的なブロック法が変化したり名称の変更が必要となる可能性があります。

尚、今回の用語統一は以下のような原則に従って行われました。

  1. 日本語表記とする。ただし、すでに日本でも広く普及している英略称については用語としての使用を認める。(例:TAPブロック、QLB、iPACKなど)
  2. 一般的かつエビデンスが十分にある神経ブロックを対象とする。すなわち現在一部のグループの医師だけが使用しているブロックは含めませんでした。(例:m-TAPAなど)
  3. 既出の用語集(日本麻酔科学会、ペインクリニック学会など)を参考にしましたが必ずしも整合性を求めませんでした。
  4. ブロック名に局所麻酔薬投与部位(神経、筋膜間など)に関する情報を入れました。
  5. ターゲットが同一(または近接)であるにもかかわらず複数のブロック名が存在している場合は一つにまとめました。(例、側方QLBと後方TAPブロック、横突起間ブロックなど)
  6. アプローチや穿刺部位に関する情報は含めませんでした。その結果、頻用されているものの今回用語として推薦しなかったブロックがあります。(例:前方アプローチ坐骨神経ブロックなど)
  7. 近位・遠位などブロックレベルに関する情報は含めませんでした。(例:近位内転筋管ブロックなど)
  8. 複数の手技を総称したブロックは基本的に含めませんでした。(例:PecsⅡブロックなど)
2023年11月
教育委員会委員長 佐倉 伸一

領域

1. 上肢
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Cervical plexus
block
頚神経叢 頚神経叢ブロック  
2 Digital block 指神経 指ブロック  
3 Radial nerve
block
橈骨神経 橈骨神経ブロック  
4 Interscalene
brachial plexus
block
第5-6(7)頸神経根 斜角筋間腕神経叢ブロック  
5 Superior trunk
block
上神経幹 上神経幹ブロック  
6 Supraclavicular
brachial plexus
block
神経幹 鎖骨上腕神経叢ブロック  
7 Infraclavicular
brachial plexus
block
神経束 鎖骨下腕神経叢ブロック  
8 Costoclavicular
brachial plexus
block
神経束 肋鎖腕神経叢ブロック  
9 Axillary brachial
plexus block
正中・橈骨・尺骨・筋皮神経など 腋窩腕神経叢ブロック  
10 Suprascapular
nerve block
肩甲上神経 肩甲上神経ブロック  
11 Axillary nerve
block
腋窩神経 腋窩神経ブロック  
12 Median nerve
block
正中神経 正中神経ブロック  
13 Ulnar nerve block 尺骨神経 尺骨神経ブロック  
14 Wrist block 手首周囲の神経 手関節ブロック  
15 Intercostobrachial
nerve block
肋間上腕神経 肋間上腕神経ブロック  
2. 下肢
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Lumber plexus
block
第4腰椎横突起レベル 腰神経叢ブロック  

大腰筋背内側

2 Femoral nerve
block
大腿神経 大腿神経ブロック  
3 Saphenous
nerve block
伏在神経 伏在神経ブロック  
4 Fascia iliaca
compartment
block
腸骨筋膜下コンパートメント 腸骨筋膜下ブロック 「鼠径上」は任意で追加
5 Adductor canal
block
伏在神経+内側広筋枝 内転筋管ブロック  
6 Femoral triangle
block
伏在神経+内側広筋枝 大腿三角ブロック 5の同義語とも考えられるがどちらも英語で頻用されているので代替使用可とする
7 Obtulator nerve
block
閉鎖神経本幹・前枝・後枝 閉鎖神経ブロック 「近位/遠位」は任意で追加
8 Lateral femoral
cutaneous nerve
block
外側大腿皮神経 外側大腿皮神経ブロック  
9 Parasacral
sciatic nerve
block
大坐骨孔レベルでの坐骨神経 傍仙骨坐骨神経ブロック  
10 Subgluteal
sciatic nerve
block
臀下部レベルの坐骨神経 臀下部坐骨神経ブロック  
11 Anterior sciatic
nerve block
小転子レベルの坐骨神経 なし  
12 Popliteal sciatic
nerve block
膝窩レベルの坐骨神経 膝窩部坐骨神経ブロック  
13 PENG block 大腿神経・副閉鎖神経関節枝 股関節包周囲神経群ブロック PENGブロックも可
14 Genicular nerve
block
膝神経 膝神経ブロック  
15 iPACK block 膝窩動脈と膝関節包間 膝窩動脈関節包間ブロック iPACKブロックも可
16 Ankle block 脛骨・深腓骨・腓腹・浅腓骨・伏在神経 足関節ブロック 個々の神経に対するブロック名も可
17 Sacroiliac joint
block
仙腸関節 仙腸関節ブロック  

仙骨神経後枝外側枝ブロック(RFA時)

18 Lumber facet
block
腰椎椎間関節 腰椎椎間関節ブロック  

腰神経後枝内側枝ブロック(RFA時)

3. 胸部
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Superficial
serratus
anterior plane
block
前鋸筋表層の筋膜面 浅前鋸筋面ブロック  
2 Deep serratus
anterior plane
block
前鋸筋深層の筋膜面(肋間筋/肋骨との間) 深前鋸筋面ブロック  
3 Superficial
parasternal
intercostal
plane block
(Parasternal
intercostal
plane block)
傍胸骨で大胸筋と内肋間筋の間 浅傍胸骨肋間筋面ブロック  
4 Deep
parasternal
intercostal
plane block
(Transversus
thoracis muscle
plane block)
(傍胸骨で)内肋間筋と胸横筋の間 深傍胸骨肋間筋面ブロック  
5 Interpectoral
plane block
大胸筋と小胸筋の間 胸筋間ブロック 従来のPecs I block
6 Pectoserratus
plane block
小胸筋と前鋸筋の間 なし 1との区別が困難
7 Intercostal
nerve block
肋間神経 肋間神経ブロック  
4. 腹部
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Rectus sheath
block
腹直筋と腹直筋後鞘の間 腹直筋鞘ブロック  
2 (Lateral)
transversus
abdominis plane
block
中腋下線で腹横筋と内腹斜筋の間 (側方)腹横筋膜面ブロック TAPブロックは任意
3 Subcostal
transversus
abdminis plane
block
肋骨弓下で腹横筋と内腹斜筋の間 肋骨弓下腹横筋膜面ブロック  
4 Modified
thoracoabdominal
nerves through
perichondral
approach
肋軟骨−肋骨移行部付近で第10肋軟骨下縁の腹横筋膜面 なし エビデンス不足
5 Transversalis
fascia plane
block
腹横筋と横筋筋膜の間(腹横筋の深層) 横筋筋膜面ブロック TFPブロックは任意
6 Anterior
quadratus
lumborum block
腰方形筋と大腰筋の間 前方腰方形筋ブロック QLBは任意
7 Posterior
quadratus
lumborum block
腰方形筋の表面で腰方形筋と脊柱起立筋の間 後方腰方形筋ブロック  
8 Lateral quadratus
lumborum block
腰方形筋の外側縁で腹横筋と内腹斜筋の間 側方腰方形筋ブロック  
9 Ilioinguinal
Iliohypogastric
nerve block
腸骨鼠径・腸骨下腹神経 腸骨鼠径・腸骨下腹神経ブロック  
5. 脊柱近傍
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Paravertbral
block
傍脊椎腔 傍脊椎ブロック  
2 Erector spinae
plane block
脊柱起立筋の深層 脊柱起立筋面ブロック  
3 Retrolaminer
block
椎弓の後面 椎弓後面ブロック  
4 Thracolumbar
interfascial
plane block
腰多裂筋と腰最長筋の間 なし エビデンス不足
5 Intertranverse
process block
上下2つの椎体横突起間で上肋横突靭帯の背側あるいは横突起と胸膜の中間 横突起間ブロック Midpoint tranvere process to pleura (MTP) block
Costtransverse foramen(CTF) blockなどの総称
6. 頭頚部
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Glossopharyngeal
nerve block
前扁桃口蓋弓基部の粘膜下0.5cm 舌咽神経ブロック  
2 Superior laryngeal
nerve block
舌骨角または甲状軟骨上角前方の甲状舌骨膜
[Landmark technique]
上喉頭神経ブロック  

舌骨大角直下
[Ultrasound-guided technique]

3 Recurrent
laryngeal nerve
block
気管内(輪状甲状間膜より穿刺) 反回神経ブロック  
4 Trigeminal nerve
block
三叉神経節 三叉神経節ブロック  
5 Frontal nerve block 眼窩上切痕近傍 前頭神経ブロック  
6 Maxillary nerve
block
翼口蓋窩 上顎神経ブロック  
7 Mandibular nerve
block
翼状突起外側板より後方、深層に針を進めて神経刺激により下顎の挙上単収縮が得られる場所
[Landmark technique]
下顎神経ブロック  
8 Inferior alveolar
nerve block
側頭下窩内の翼突下顎隙
[Ultrasound-guided technique]
下歯槽神経ブロック  
9 Supraorbital nerve
block
眼窩上切痕近傍 眼窩上神経ブロック  
10 Infraorbital nerve
block
眼窩下孔近傍 眼窩下神経ブロック  
11 Mental nerve おとがい孔近傍 おとがい神経ブロック  
12 Supratrochlear
nerve block
眼窩上切痕より内側1cm 滑車上神経ブロック  
13 Auriculotemporal
nerve block
耳介前方の頬骨基部 耳介側頭神経ブロック  
14 Zygomatictemporal
nerve block
  頬骨側頭神経ブロック  
15 Great auricular
nerve block
耳介後方の乳様突起遠位 大耳介神経ブロック  
16 Greater occipital
nerve block
第2頸椎レベルの頭半棘筋と下頭斜筋の間
[Ultrasound guidance technique]
大後頭神経ブロック  
17 Superficial cervical
plexus block
胸鎖乳突筋と椎前筋膜の間 浅頸神経叢ブロック  
18 Deep cervical
plexus block
第2~4頸椎レベルの深頸筋膜下 深頸神経叢ブロック  
19 Stellate ganglion
block
第6頸椎レベルの頚長筋内 星状神経節ブロック  
20 Cervical facet joint
block
頸椎椎間関節包内 頸椎椎間関節ブロック  
21 Posterior superior
alveolar nerve
block
第2大臼歯の後側方部 後上歯槽神経ブロック  
22 Anterior superior
alveolar nerve
block
第1小臼歯上方の歯肉頬粘膜移行部 前上歯槽神経ブロック  
23 Greater palatine
nerve block
上顎の第2大臼歯と第3大臼歯(智歯)の接合部の内側1cm 大口蓋神経ブロック  
24 Nasopalatine
nerve block
切歯乳頭の外側 鼻口蓋神経ブロック  
25 Buccal nerve block 下顎第2大臼歯の遠位の頬組織 頬神経ブロック  
26 Incisive nerve
block
おとがい孔近傍の歯肉頬粘膜移行部 切歯神経ブロック  
27 Retrobulbar block 眼窩内の筋円錐 球後ブロック  
28 Peribulbar block 外眼筋の筋円錐の外側 眼球周囲ブロック  
7. ペインクリニック
※左右にスクロールすることで内容が表示されます。
  英語一般名 薬液のターゲット部位 推薦日本語表記 備考
1 Stellate
ganglion block
C6横突起前結節上の頸長筋内 星状神経節ブロック  
2 Superficial
cervical plexus
block
第2-4頸神経浅枝(皮枝) 浅頸神経叢ブロック 深頸と浅頸の違いは教科書によって異なることが多い
薬液を大量に注入すれば同じ結果になるかもしれない

胸鎖乳突筋外縁に局所麻酔薬注入

3 Deep cervical
plexus block
第2-4頸神経深枝(筋枝) 深頸神経叢ブロック  

C4レベルでの頭長筋内に局所麻酔薬注入

4 Greater occipital
nerve block
大後頭神経C2後枝 大後頭神経ブロック  

近位アプローチ:頭半棘筋内 遠位アプローチ:後頭骨上

5 Lesser occipital
nerve block
小後頭神経 小後頭神経ブロック  
6 Third occipital
nerve block
第3頸神経後枝内側枝、C2/3椎間関節 第三後頭神経ブロック  
7 Gasserian
ganglion block
三叉神経節 三叉神経節ブロック  
8 Supraorbital
nerve block
眼窩上切痕 眼窩上神経ブロック  
9 Infraorbital
nerve block
眼窩下孔 眼窩下神経ブロック  
10 Mental nerve
block
頤孔 頤神経ブロック  
11 Maxillary nerve
block
正円孔(透視下)、翼状突起外側板基部(超音波ガイド下) 上顎神経ブロック  
12 Mandibular
nerve block
卵円孔(透視下)、翼状突起外側板 下顎神経ブロック  
13 Facet joint
block
椎間関節内 椎間関節ブロック  
14 Medial branch
of posterior
ramus block
肋骨突起(横突起)と上関節突起の接合部 後枝内側枝ブロック  
15 Celiac plexus
block
腹腔神経叢 大動脈前面 腹腔神経叢ブロック 横隔膜より腹側で行うのが腹腔神経叢ブロック、背側で行うのが内蔵神経ブロックとなる
現在は両者含めて腹腔神経叢ブロックと使われることが多い。
16 Splancnic nerve
block
retrocrural space 腹腔神経叢(内臓神経)ブロック  
17 Sacroiliac joint
block
仙腸靱帯または仙腸関節内 仙腸関節ブロック  
18 Tibial nerve
block
脛骨神経 脛骨神経ブロック  
19 Sacral nerve
root block
仙骨部神経根 仙骨部神経根ブロック  
20 Nerve root block 神経根周囲(アプローチは問わず) 神経根ブロック  
21 Transforaminal
epidural block
神経根腹側 経椎間孔ブロック  
22 Lumbar plexus
block
大腰筋内腰神経叢 腰神経叢ブロック  
23 Ganglion impar
block
不対神経節 仙尾骨接合部腹側 不対神経節ブロック  
24 Intraarticular
injection
関節腔内 関節内注射  
25 Intrathecal
analgesia
くも膜下腔 くも膜下鎮痛法  
26 適切な英語名なし 梨状筋(筋内の仙骨神経叢) 梨状筋ブロック 慣習的に梨状筋ブロックと称するが、結果的に坐骨神経ブロックとなることが多い。